講演


正確で力強い動作を実現する脳内メカニズム

~動作の計画、準備から実行まで~ 

日本大学生産工学部 助教

中山義久 先生



<概要>

 陸上競技のスタートには「位置について、用意、ドン」という合図が使われる。この間に、選手はどのように足を動かすかをイメージし、いつでも動き出せるよう準備をし、そして実際に運動を開始する。これらのプロセスを円滑に実現するためには、脳のさまざまな働きが不可欠である。これまでの脳研究から、前頭葉の高次運動野と呼ばれる領域が、「どのような動作を行うか」という動作の計画(位置について)や、動作の準備(用意)に深く関与していることが分かってきた。また、動作の実行(ドン)には高次運動野に加え、一次運動野が関与することが知られている。本講演では、自分の意思に基づく動作を正確に実現させるための計画、準備、実行という各過程における脳のはたらきについて、前頭葉の機能に焦点を当て基礎から最新の知見までを概説する。一方、動作の実行(ドン)の際に良いパフォーマンスを発揮するためには事前準備が重要であり、その準備段階における精神状態がパフォーマンスに影響することが経験的に知られている。トップアスリートでも、準備段階の精神状態によって高いパフォーマンスをあげることができる場合もあれば、本来の力を発揮できずに失敗に終わる場合もある。このような精神状態が運動パフォーマンスに影響する過程の脳のはたらきについては、現時点では未知の点が多い。講演者らが実施した機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いた実験では、運動の準備(用意)段階の脳活動が、直後(ドン)の力の生成に関わることが示唆されている。本講演では、このような運動前の意欲がパフォーマンスに及ぼす神経基盤についても概説する。